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カテゴリー>福祉・医療 |08.11.02

東京レポート 受け入れ拒否・妊婦死亡 当直医不足改めず 重い都の責任

  脳内出血を起こした妊婦(36)が、都内の8つの病院から受け入れを断られ死亡した10月7日の問題は、産科病院の深刻な実態を改めて浮き彫りにしました。また、危険の大きい出産に24時間、対応できる地域の責任病院である都立墨東病院が、土、日、祝日の当直を一人体制とし、患者を受け入れることができない状態にあったこと、都もその実態を容認していたことが明らかになりました。繰り返された事故は、防げなかったのでしょうか。
 女性は同月4日、頭痛などの体調不良を訴え、かかりつけの五の橋産婦人科医院(江東区)に救急車で運ばれました。医師は脳内出血の疑いがあると診断。午後7時頃から電話で緊急手術ができる病院を探しました。 最初に連絡をしたのは、墨東病院(墨田区)。都内に9カ所置かれている総合周産期母子医療センターのひとつです。ところが、墨東病院は産科医が減ったため、7月から土、日、祝日の当直医が1人になり、「基本的に患者を受け入れていない」状態にあったと言います。

安心して出産できる環境を 医師会が2月に改善要求

 10月4日は土曜日。1人だけの当直医は受け入れを断り、他の病院を紹介したと言います。しかし、その後「当直医が他の患者の対応中」「空きベッドがない」などの理由で7つの病院に次つぎに断られました。墨東病院は、2度目の依頼で医師を呼び出して対応しました。ようやく、1時間15分後に、女性は帝王切開で出産。脳内出血の血腫を取り除く手術をしましたが、3日後の7日に死亡しました。
  墨東病院は、出産間近の妊婦にとっては、〝最後のとりで〟ともいわれる都立病院であり、当直医は2人以上とされています。
  墨東病院(墨田区)とかかわりが深い江東区助産師会会長の加瀬けささん(80)は「都の責任」をきびしく指摘します。加瀬さんによると7月になってから、家庭で出産する妊婦が出血多量で危険な状態になりました。墨東病院に受け入れを依頼しましたが、「当直医が1人しかいない」と拒否。妊婦の命にかかわる緊急事態だったため、「妊婦を強引に病院へ連れて行って助かった」と言います。
  当直医が2人だった6月以前は受け入れを拒否されたことはありません。妊婦死亡の直後、加瀬さんたち江東区助産師会は都がただちに産科医を確保するよう江東区長に要望しました。
  加瀬さんは怒ります。
  「妊婦が危険なとき、受け入れてくれる機能と役割を持った都立病院なのだから、都が責任をもつべきです。そうでないと妊婦も私たちも安心できません」
  墨東病院は昨年11月、産科医不足のため通常の出産受け入れをやめ、一人当直制になるのも時間の問題と言われていました。このため、墨東病院と関係する江東、隅田、江戸川の3区の医師会と産婦人科医会は今年の2月、会長6氏の連名で、墨東病院と都病院経営本部に2人当直を維持することなどを書面で要求。医師会側は「回答はいまだにない。都の責任は大きい」と語っています。
  これに対して都の病院経営本部は「努力をしたが1人当直になったとしてもやむを得ないと判断した」と答えています。
  都は、地域の産科医などに診療協力をえるなどして責任病院の態勢を維持していくとしましたが、「患者を受け入れることができない状態」はやむを得ないと責任を放棄する立場をとったのです。
  墨東病院以外の、妊婦の受け入れを断った7つの病院のうち、ひとつを除いた病院は都内の周産期医療を支える「周産期医療母子医療センター」に指定されていました。
  この10月、帝王切開で男児を出産した葛飾区に住む女性(32)は妊娠後、子宮筋腫が見つかったため万が一を考え、出産の際に出血多量などの対応ができる病院へ移りました。「もし、病院を変わらずに出産し出血多量となったとき、受け入れ先がなかったかもしれない、と考えるとぞっとします。〝産科医不足だから、命を失っても仕方がない〟でいいのでしょうか。安心して子どもが産めるようにしてほしい」

病院、医者の連携必要 立川相互病院副院長・救急科科長 山田正和さんの話

 妊婦にとっては最後のとりでとなる総合周産期母子医療センターの都立墨東病院の当直医が一人だったこと、しかも若手の医師だったと聞いて、救急患者を受け入れるのはきつかっただろうと想像します。今回の場合、受け入れるためには、産科医のほかに脳外科医の承諾も必要だったと思います。 複数の医師がいれば、対応は当然、違っていたでしょう。最後のとりでの役割を果たすためには、少なくとも当直医の複数体制をとる必要があります。その意味で、都としての責任が問われると思います。
  いま、妊娠がわかって2、3カ月のうちに、お産の予約をしなければ病院に入れない状況もあります。私たちの病院でも、お産の予約はすでに3月まで埋まっています。医者を育てるには10年かかると言われていますが、産科医や産科病院数を増やさなければ根本的な解決はありません。
  当面、医師増が望めない以上、病院や医者の連携が強く求められているのではないでしょうか。例えば、開業医の先生の力を借りることも考えられます。大きい病院へ、非常勤で当直医としてきてもらうことも、ひとつの方法ではないでしょうか。行政や医師会がリーダーシップをとり、地域全体の妊産婦に対する対応ができるように知恵を出し合い、連携することが大切です。
  そのためには、医療費の抑制政策をやめ、診療報酬をあげることや手当をつけることなど、財政的な裏付けがどうしても必要です。 この事故で、産科医の仕事が、しづらくなることだけは避けたいですね。