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トップ>カテゴリー>文化・スポーツ|10.02.08

ちっちゃなはがきにおっきな夢込めて 小池邦夫氏=日本絵手紙協会会長= 67歳 狛江市在住

小池氏が手がけた横断幕の前で(狛江駅前) 身近な題材を絵に描き、短い言葉を添える絵手紙は、書き手のぬくもりを感じさせ、全国にファンを広げています。その絵手紙の発祥の地を売りにした狛江市の街おこしが注目を集めています。同市在住の絵手紙創始者、小池邦夫氏(67)=日本絵手紙協会会長=(写真)が1981年7月、「ふみの日記念イベント」で狛江郵便局に講師として招かれ、絵手紙教室を初めて開催したことが由来です。小池さんを訪ね、絵手紙の“生い立ち”や魅力につい聞きました。

「絵手紙」の産声

  絵手紙が生まれるきっかけは、まだ「絵手紙」という言葉もなかった1960年、小池さんが19歳のころにさかのぼります。東京学芸大学書道科に入学した小池さんは、自分の思いを表現することを望んでいたのに、手本を見ながら整った字を書く訓練をする毎日に、いら立ちを募らせました。唯一、救いだったのは、そんなやり場のない気持ちをはがきに込めて、友人の正岡千年氏(中学の同級生、書家)に毎日送ったことでした。
  そのうち字だけの手紙につまらなさを感じた小池さんは、当時カラーテレビが普及し始めたこともあって、色を付けることを思い立ちます。「美しい絵は描けないけれど、絵があった方が受け取った側もうれしいだろうと思ってね」。絵手紙が産声をあげた瞬間でした。
  友人は、返事は出さないかわりに、ほめたりアドバイスするキャッチャー役に徹してくれました。それが励みでした。

転機は6万枚

  「簡単で短い言葉、いまでいうキャッチコピーのようなもの。言葉は、長くも短くもできるし、いろいろと応用が効く。すごくおもしろくなった」。
  「絵手紙の魅力」に取りつかれた“小池青年”は、いつしか「絵手紙を職業にする」と決心。卒業を目前にしながら大学もやめてしまいます。
  しかし、「絵手紙」で生計を立てることなどできません。進学塾で国語の講師をしながら、友人への絵手紙が続きます。「絵は我流だったけど、夢中で書いた。書き続けることで、人の心をつかむ魅力も感じた。友人は『はがきの芸術だ』といってくれた」。
  “小池青年”に転機が訪れるのは30歳代半ば。銀座で開いた個展に訪れた季刊雑誌『銀花』(美術雑誌)編集長との出会いでした。「今どき、こんな手紙を書いているなんてすごいわよ。小池さんを何とか世に出してあげたい」。 その条件として突きつけられたのは「一年間で絵手紙6万枚を書くこと」。特集記事を掲載する号に、肉筆の絵手紙をとじ込んでプレゼントする企画でした。
  「これにかけよう」。決断した小池さんは、塾講師もやめて制作に熱中しました。自ら一日200枚のノルマを課して制作に取りかかりましたが、一日10―12時間は要し、10日もすると、けんしょう炎で筆が持てなくなるありさまでした。肉体的にも精神的にも困難を極めました。
  1978年、ついに発刊された『銀花』には「小池邦夫の絵手紙文学 人並みでたまるか」との見出し。「絵手紙」が世に出たのです。いま、そのときの『銀花』を全国の読者から借り受け、絵手紙を一冊の本にまとめて出版する企画が進行中です。

人と人との心つなげる

  狙いはみごと的中。これが話題となり、みるみる絵手紙が全国に広がりました。30年たっても衰えないその魅力はどこにあるのでしょうか。
  小池さんは「人の心を伝え、つなげる。自分を表現できる。簡単に書ける」の3つをあげ、「ちっちゃなはがきだけど、心を込めたものには、お金にはかえられない何かがある。だから絵手紙は、人の気持ちを温かくしたり、心を動かす力がある」といいます。

狛江もはがきも小さい

  「次の世代に絵手紙を残したい」という小池さん。昨年、狛江市が立ち上げた「絵手紙発祥の地―狛江」実行委員会のメンバーになりました。
  小池さんは、絵手紙を使った街づくりについて「狛江市は、全国で3番目に(面積が)小さい市で特色もあまりないまち。その意味では、はがきに似ている。そのはがきで、狛江市を日本中に発信するなんて、何かおもしろくなってきましたよ。市もよくやってくれます」。
  小田急線狛江駅前に掲げた「絵手紙発祥の地 狛江」と書かれた横断幕は、小池さんが書き、市民だけでなく各地から見学に訪れるなど話題を呼んでいます。8月23日には、小学生とその親、数組が出席しての「絵手紙サミット」を計画しています。

「ヘタでいい。ヘタがいい」

    これから絵手紙を始めようという人へのアドバイスを聞くと、「『ヘタでいい。ヘタがいい』というのが私のモットー」という答え。
  「親しい人に送るのですから、“ヘタ”な方が飾らない本当の心が届く。整った字を書くというこれまでの価値観とは逆。一生懸命に書いているうちに、自分の味が出てきます」。
  こつは実物をじっくり見て、実物より大きく書くこと。「小さく書くと、おどおどした感じになって、気持ちが迫ってきません」。
  最後に、絵手紙の意外な活用術を教えてくれました。同居家族に絵手紙を郵送することです。小池さん自身は、7年前から妻・恭子さんあてに絵手紙を毎日書いて、ポストに投かんしています。
  「まず、自分の歩みが残ります。そして、ちょっと恥ずかしくて面と向かって口に出して言えないことも、文字になら書けるでしょ。親子の心を通わすことができます。夫婦げんかをしたときには、絵手紙で謝るのもいいですよ」。
狛江駅前に出現した巨大絵手紙

  小池邦夫氏 1941年愛媛県生まれ。75年第1回作品展。91年以降中国、フランス、ルクセンブルグなどで交流展。96年日本絵手紙協会設立。講演、テレビ出演などで絵手紙普及に活躍。著書に「絵手紙入門」(日貿出版)「心を贈る絵手紙の本」(祥伝社)「絵手紙の書」(日本放送協会)など多数


 

(「東京民報」08年7月20日号に掲載)

 

 

(10年2月3日に狛江駅前に出現した小池氏の手による巨大絵手紙)